潮騒の子守り歌-[conparuの白い航跡]

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zoom RSS 大きなうねりの谷間で

<<   作成日時 : 2010/11/16 21:07   >>

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もう、すっかり陸上の生活者であり、乾いた季節ごとの服装に身を包んでいるにも拘わらず、ときおり潮飛沫に濡れた大海の船上に想いを馳せることがある。

巨体を震わせ、山のような大きなうねりの頂上から、谷底のような奈落に向かって浮沈する船体・・・ミシミシッ!ミシミシッ!ギュルルーンと船室の壁と床を揺すって、絶え間ない喘ぎを響かせていた船体は、逃れ得ようのない生活の一部として否応なく受け入れるようになっていく。
環境への順応によって、当たり前の日常と化してくるのだった。
人間はどの様な環境にも生きて行けるように仕向けられていると言ってもいい。木の葉のように翻弄される船を、逃れようもない唯一の居場所として、安住するようになっていくのである。

生を託した巨大な揺りかごは、若い海人の悩みのたびに帰る場所でもあった。
しかし安住の場所と云っても所詮海の上である。轟々と荒ぶれる大海の上では、一たび不安に襲われると木の葉のように頼りないものになってくるのである。
自分はこの先、どのように生きればいいのだろう・・・甲板に打ち上げられる飛魚のように、途方に暮れてしまった。
19歳の少年は、もやもやとした不安を抱きながらも、将来の自分の姿を漠然と意識し始めた時から、現実への行程を模索し始めた。

未来の自分像で納得できるものは何か?そのような思いが日常化していた或る日、少年は問題を起こした。
少年は問題になるという意識は無かったのだが、機関員のボトムであるEの告げ口で上層部に知られてしまった。そのことが『転機』としての決定的な行動決意をもたらした。


その日は何時ものようにボトムセーラー(最下位のセーラー)で、『ボーイ長』と呼ばれる名ばかりの長の仕事に就いていた。
部員の食事の世話をする係で、朝食のパンを焼こうとした時に、電気コンロが故障して焼くことができなかった。困った少年は3等機関士のところへ修理の依頼行ったのだが、3等機関士は『そんなことぐらい自分で直せ』と云って追っぱらわれてしまた。

後に思ったことだが、3等機関士には「当直」の任務があり、ニクロム線交換の些細なトラブルにかまっていられなかったのだった。未熟な少年には相手の職質にまで思いやることができなかったのでイラついた挙句、腹立ち紛れにコンロの裏側へ「KILL!3機」とチョークで書いてしまった。
そのことが同じボトムである機関員(火夫)の眼にとまり、一気に問題化してしまったのだ。
しかし、未熟な少年ゆえに起こったこととして、本人に直接問いただすこともなく、先輩セーラーたちが少年の部屋に集まって、少年の日記を声高に読み上げただけで済んだ。『事件』は潜在化して処理されようとしていた。

先輩たちは日記の内容から事の次第を探ろうとしたのだろうが、少年は問題意識が無かったのでそのような内容は一切記載していなかった。
ボトムセーラーの『ボーイ長』を長期間やっていたキャリアーが、職務への緊張感を減退させていたのは間違いない。取り巻く状況が大きく舵を切って、「陸上」への転換が切望されるように募っていくのだった。





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